新春を迎え、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
2020年より続くコロナ禍がもたらした厳しい社会情勢の中においてなお、多くの皆様から当機構の諸活動への変わらぬご支援、ご協力を頂戴しておりますことに深く御礼を申し上げますとともに、本年も引き続きご助力を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。
さて、当機構は2005年の設立以来、18年間の長きにわたって多くの方々のご支援、ご協力を賜りながら懸命に万引き防止対策に取り組み続け、万引き問題を総括的に扱うただ一つの団体として多くの実績を残してまいりました。
一方、全国の刑法犯認知件数が2002年をピークに大幅に減少する中、他の犯罪に比べて万引きの減少幅については極端に緩やかであるため、全刑法犯に占める万引きの割合は年々増加傾向にあり、現状、我々の努力、熱意にもかかわらず、万引きは、犯罪の中において量的な重みを増しております。
また、「犯罪が社会の実情を映す」と言われるように、高齢者の孤独の問題や、技能実習等の目的で来日した東南アジア系外国人の苦境、ネットオークション・フリマサイト等のEC市場の発展とその悪用などを背景として、万引きもまた社会の抱える問題を如実に映し出しており、質的にも重くなっていると言わざるを得ません。
このように万引きを取り巻く情勢が厳しく変化する中で、当機構の施策についても、設立当初の万引きに関する情報提供や啓発を中心とする活動から、万引きを抑止する上で有効な対策を自ら主体的に講じる活動へと進化してまいりました。
その代表的なものが、「商売は競争しても万引き対策は協働」との理念の下、異なる事業者間における万引き被害・犯人情報を共有・活用するための各プロジェクトの推進です。
渋谷地区の3書店間における「渋谷書店万引対策共同プロジェクト」は開始から3年半が経過しましたが、万引き犯人の顔認証情報の共同利用という先駆的な取組みにより、参加店舗の大幅なロス率の減少、万引き抑止の成果を上げております。今後の展望として、他地域への運用拡大を見据えております。
また、異なる事業者間で万引き被害情報・犯人情報を共有する「緊急通報システムプロジェクト」も開始後3年余を経ました。主に東南アジア系外国人による大量万引き被害発生時に、万引き対策上有用な情報を迅速に共有することで、被害拡大防止に効果を発揮しております。加えて、本プロジェクトの参加事業者を中心として月に1度、万引き被害情報・犯人情報や被害防止対策等を共有する「集団窃盗対策会議」を開催しておりますが、昨年2月からは、この会議に関係各県警本部に所属する現役警察官の方々にも参加していただいております。更に、従来、会議内容は東海・中部地区の万引き被害情報・犯人情報の共有を中心としていたところ、本年からはこれを関東地区にまで拡げ、「重要万引犯罪情報連絡・検討会議」と名称を新たにし、多くの小売事業者、警察関係者に参加していただく会議へと発展させていきたいと考えております。
これらのプロジェクトを推進する上では、防犯カメラ画像による犯人画像を取り扱う際の法的問題や社会的相当性のハードルをクリアすることが不可欠であり、当機構では、一昨年から、認定個人情報保護団体として十分に個人情報保護に配意した運営を行っております。更に昨年11月には、新たに特定分野型認定個人情報保護団体に認定され、防犯に特化した認定個人情報保護団体として、各関係事業者が直面する個人情報保護と万引き防止の様々な問題を解決する体制を整えております。
また近年、ネットオークション・フリマサイト等のEC市場が急速に拡大し、これらを活用することにより簡単に物を処分できる利便性を悪用して、万引きの被害品を含む盗品が数多く流通しております。そこで、EC市場の運営事業者が一員となり、当機構内に設置した「インターネット委員会」において、不審な出品者に対して啓発メールを発信し警告を行う取組みを実施しております。これにより、EC市場を悪用する者に対し、自身の出品物が監視されていることを意識させて出品を自発的に取りやめさせたり、アカウントを停止させるなどの実効性のある仕組みを構築しております。
更に、一昨年から実施している「ロス対策士検定試験」では、現在まで491名の方々が合格し、小売業の不明ロス率をコントロールするのに十分な知識を備えた認定ロス対策士としてそれぞれの職場で活躍しております。今後も、万引きを含むロス・プリベンションの課題に対し、正面から取り組む専門知識を持った数多くのロス対策の専門家が育成されることが期待されます。
以上、当機構の取組みの一端を紹介しましたが、このほかにも様々な施策を関係機関と連携しつつ推進しております。特に現在、足立区において計画されているプロジェクトに参画し、先に紹介した「緊急通報システムプロジェクト」と同様のシステムを活用して、各事業者間において万引き被害情報・犯人情報を共有することにより、自治体と区内小売事業者が一丸となって万引きを抑止する前例のない取組みが進められております。本年は、これら推進中の施策が形となり、マスメディア等を通じて社会的な関心が集まることで、万引きに対する大きな抑止力となる1年になるよう期待しております。
当機構の存在価値は、万引きという大きな社会問題の解決に貢献するという公共的なものでありますが、他方で、万引きに苦しむ小売事業者の味方となり、その抱える悩みや苦労を解決することにもあります。それを可能にするためには、この機構の構成は、この問題に関心を寄せる警察、自治体、防犯関連事業者等はもちろんのこと、被害者たる小売事業者が多数であるべきだと思います。これにより、この機構の活動は、より被害の実態に沿ったものになると思うのです。
そこで私たちは、これまで当機構を構成していただいてきた業界団体の、加盟事業者個々が当機構に参画するとともに、関連する他の事業者にも参画を促していただけるようお願いをしております。皆様方におかれましても、よろしくお願い申し上げます。
結びに、皆様方のご健勝、ご活躍を祈念して、年頭のご挨拶とさせていただきます。